写真ワークショップの設計

FILM理論による写真の学び方を学ぶプロセス

「生命の力強さ」を伝えるために撮影した写真(本講座の参加者の作品)

概要 : 本論では、iPhoneを例に写真撮影と写真編集の「学び方を学ぶ」方法について、研究した結果を公開します。全くの初心者で会っても、前日にiPhoneを買った人でも、短時間で「写真の楽しさ」と「撮影方法」「画像編集」を学べるようになります。

以下の研究結果を、ICT教育に、趣味に、ビジネスに、広報活動に生かしていただければ幸いです。

補足 : 以下の研究成果は、中学生から前日にiPhoneを購入した70代の男性まで幅広い参加者からのフィードバックを元に、何度も修正を行った結果であり、実証済みのものです。ご協力いただいた皆様に、感謝をいたします。

1 なぜ、写真を思うように学べないのか?

私も、写真がなかなか学べるようになりませんでした。

高級カメラを2台も買い、書籍を読み、プロの腕前を持つ人にアドバイスをもらっても、上達しませんでした。その原因は、大きく分けて3つあります。

  1. 高い期待と人と比較することで、挫折感を味わう(感情面による学習障害)
  2. 正しい方法によって正しい答えが出るアプローチ(ティーチングアプローチ)
  3. 良い学習スタート、発展学習のプロセスがない

以下、この3つを解説します。

1.2 失敗経験が生み出す悪循環

現在、写真は誰でも手軽に撮影できます。iPhone、スマホの高画質カメラや、高級コンパクトデジタルカメラ、一眼レフカメラなどが、手軽に買えます。さらに、様々なメディア(新聞、雑誌、広告)や、ブログ記事、InstagramやFacebookなどのSNSで「高いクオリティの写真」を見る機会が多いです。

私たちの脳は「普段触れている情報の平均値を、自分の基準」にします。その結果、多くのクオリティの高い作品を見て、目が肥えています。そして、自分が取る写真にも

状態になっています。そんな中、最初の一枚と「自分の中の期待する結果」を比べた時、ガッカリする確率が高まります。特に「できるはず!」と思っていれば、入るほど、その落胆は大きくなります。

そして「失敗したくない」から、入念に準備しよう、正しい方法を学ぼうと思い始め、「ティーチングアプローチ」を採用してしまうことが多いです。

1.2 なぜ、ティーチングを採用してしまうのか?

ティーチングアプローチは、とても心地が良いです。チーティングアプローチのパラダイム(考え方、前提など)は、

というものです。この考えの根底には、暗に

という前提があります。つまり、「一度挫折した人」からすれば、失敗をせずに済むように見えるティーチングアプローチは魅力的に映りやすいです(私も、そうでした)。

1.3 ティーチングアプローチの起源

現在の義務教育や高等学校の教育、さらには各種のオンラインコースなどの多くが「ティーチングアプローチ」を採用しています。

正しい方法で正しい答えが出る場合の効率の良い教育(調教)

では、一体このティーチングアプローチは、いつ、どこで生まれたのでしょうか?

このティーチンングアプローチの起源は、産業革命時に遡ります。工場で働く、肉体労働者に、特定の作業を一度に教えるために開発されました。

肉体労働者に求められたことは、「正しい方法を、正しく行うこと」です。

単純作業においては、正しい方法を事前に明らかにし、その通りに動作できるように訓練(調教)することで、「正しい結果」が得られます。

toiee labでは、このようなパラダイム(考え方、姿勢)の延長にある教育を「ティーチングアプローチ」と呼んでいます。

1.4 写真はティーチングアプローチでは学べない

写真を撮影するというのは、極めて「試行錯誤の要素」や「言語化できない要素」が多いため、ティーチング・アプローチ(正しい方法を学べば、正しい答えが出るので調教する)では、良い写真は撮影できません。

また、写真編集になれば、アプリによって画像編集機能のネーミングやアイコン、フィルターが異なり、「正しい方法」を覚えるようなアプローチで、すべてを覚えることはできません。

さらに悪いことに、「写真を使って、自己表現」や「伝えたいものを表現する」という醍醐味、楽しさに至る方法は、「言語化(正しい方法)」を定義できません。

1.5 ティーチングからラーニングへ

数学教育の多くは「途中を飛ばしてしまうと、後がわからなくなる」と脅しをかけます。しかし、社会人になってから必要に応じて数学を学んだ人からすれば、数学を学ぶというのは「積み上げ」ではなく、全体と部分の行き来、あるいは、行きつ戻りつのサイクル(螺旋的発展)です。

ティーチングとラーニングの違い

写真の基礎技術を完璧にマスターしてから、次の段階ではなく、「基礎技術を少し学んだら、応用をやってみる」すると「基礎の大事さがわかって、基礎をよりきめ細やかに」学ぶことになる。

そして基礎が詳細に見えてきたからこそ、「応用技術の繊細な部分」が見えて来るというように、螺旋的発展をします。

さらに、このサイクルを進む方法は、「探求する」「問う」「仮説を修正する」などの能動的な学習が欠かせません(英語に直せば、はやりのアクティブラーニングです)。

「ティーチングではなく、ラーニングによって、もっと多くの分野を学ぶことができ」ます。これは最新の学習の研究からも明らかです(※詳しくは、学習理論をご参照ください : 準備中)。

2. どうやって学べばいいのか?

教わるのではなく「学ぶ」とは、一体何を指すのでしょうか?、そして具体的に何をすれば良いのでしょうか?この章では「教わる」と「学ぶ」の違いについて書きます。そして、具体的に「写真の学ぶステップ」を示します。

2.1 「教わる」と「学ぶ」の違い

写真の撮り方を教わるというのは、

という「やり方と答えがセット」になっていて、それを覚えて使うことを指します。このような方法だと、目の前に被写体があった時、過去の正解事例を検索し、再生するように写真を撮ってしまいます。

もし、想定外のものに出会ったら、検索結果が出てこず、撮影方法がわかりません。これがティーチング(教わる)です。教わってないもの、レシピがないものは撮影できません。

一方で、ラーニングでは、どうでしょうか? 基礎技術を学ぶときから、仮説、検証、探求によって自分なりのルールを作ります。そして、ルールに当てはまらないものが出会っても、試行錯誤によってルールを修正し、洗練させていきます。

もし、未知の被写体(状況)が現れても、基礎技術を学んだときと同様に「試行錯誤」によって、ベストを尽くすことができます。この経験によって、さらに写真技術が上がり続けます。

このような学び方をすると、「写真を撮れば、撮るほど上達する」ということが実現できます。また、プロの写真、友達のすごい写真、SNSで見つけた写真を見て、そこから様々なものを引き出して、自分のものにすることができます。

ティーチングではなく、ラーニングによって「写真の学び方を学ぶ」と、極めて応用力の高い状態になることができます。

2.2 ラーニングの4つのメリット

ラーニング・アプローチを採用することで、4つのメリットがあります。

  1. 失敗を恐れなくなる
  2. 人と比べなくなる
  3. 学ぶことが楽しくなる
  4. 応用が利くようになる

まず、ラーニングの特徴は、「試してみる、確認する、仮説を修正する」というサイクルにあります。つまり、素早く第一歩を踏んで、自分が何ができて、何ができないか?を確認することになります。結果、失敗を恐れる前に行動を起こしてしまいます。

次に、自分の行動の結果を振り返るので、他人と比べません。常に自分の行動と結果を比較するだけです。他者と比べず、前の自分と比較することになり、結果として「自分の成長を実感する」という繰り返しが起こります。

これは学習において非常に重要な「自己肯定感」を生み出し、柔軟な心の状態を作り出します。それによって、ますます、新しいことにチャレンジしたくなります。

そして、チャレンジ = 新しいことを学ぶを繰り返すことで、応用力がつきます。そもそも、応用力とは「新しい何か」に対して、対応できることを指します。常に新しいチャレンジをするなら、自然と応用力がつくのは必然です。

2.3 どんな課題で「ラーニングを実現」するのか?

では、学習を引き起こすには、どのような順番で、何を課題としてチャレンジをすればよいでしょうか?

もちろん、いきなりコンテストに応募する作品にチャレンジするは、悪くありませんが、万人向けではありません。多くの人にとっては、失敗経験になってしまいます。そこで

が必要になります。課題を決める基準は、認知科学などで知られている「学習の4プロセス」をベースに、実際にテストを行い設計します。

toiee labでは、「課題の抽象度を上げていく」と表現している、「一つ前の能力を発揮せざるを得ない課題」を設計していくことが重要です。

このように、しっかりとした学習理論に基づいて、課題設定を行います。次の章では、テストの結果、決定された課題設定と、それぞれの課題への取り組み方を説明します。

3. どんな課題にチャレンジすると良いか?

様々なテストや理論の見地から検討した結果、以下の要素と順番になります。

  1. フレーム(三分割法、寄り・引き、高さ・角度)
  2. テーマを持って撮影する
  3. テーマを持って編集する
  4. 光、奥行き、色
  5. プロの作品を分析する
  6. 伝えたいことのために撮影する

これらの順番によって、徐々に抽象的で、非言語のレベルの知識、技術、姿勢を学ぶプロセスを作りだすことができます。以下、それぞれ、どのように学べば良いかを解説します。

3.1 フレーム

以下の3つの技術を「教わるのではなく、学び」ます。

方法は、すごくシンプルです。説明を読み、とにかく撮影をしてみます。この時、良い写真を撮るのではなく、

を探求するために、撮影を行います。何枚も撮影し、自分なりに仮説と検証を繰り返します。この時、大げさに違いを作ってみたり、思い切って技術を使うなど、メリハリを作ることが大切です。

そしてもう一つ大切なことがあります。それは、独習する場合であっても、「誰かにこのフレームをわかりやすく説明する」ために探求することです。そして可能なら、実際に説明することです。

「人は人に教えた時に、よく学ぶ」を実践することです。

また、toiee labが開発した、「FILMシート」を使って「期待する結果」などを書き出して、探求すると、すごく効果的です。

3.2 テーマを持って撮影する

3つのフレームを、探求することで身につけた後、テーマを持って撮影をします。テーマとは、

などです。どんな角度、どんな構図、何を入れたら「テーマを実現できそうか?」と考えて、撮影をします。

実は「この作業によって、一つ前の3つのフレーム」すべてを無意識下で組み合わせて使うように仕向けています。人は「目的のための手段を自動処理化」しやすい傾向があります。

この傾向を利用して、3つのフレームを鍛えつつ、同時にテーマで撮影するというチャレンジをします。

なお、撮影後に「3つのフレーム」を、どう使っていたか?を振り返るのも、すごく効果的です。自分が無意識にやっていることを、意識に上らせ、修正することは、単なる学習を高次学習に引き上げます。

3.3 テーマを持って編集する

次に「アプリ」を使って「テーマに向けて編集」を行います。ここで重要なことは「テーマを実現するために、アプリを使う」ということです。通常、アプリの使い方を学んで、それから「何らかの目的に使う」という手順を踏みます。

ところが、写真アプリは、アプリによって名称、機能、ボタン配置が違います。さらに同じアプリであっても、次々と更新されて機能が増えたり、整理されたりします。もっと悪いことに、単純計算で「画像編集アプリの機能は、100を超え」ます。

結果、「先にやり方を学んで、それから何かをやってみる」アプローチが使えません。これは、ティーティング(教えられて、何かをする)の限界を指しています。

そこで、アプリを使えるようになるには「ラーニングを引き起こす」ことが必要です。そのために「テーマに向けて編集」とすることで、「アプリの学習は手段」にします。すると、学習がされやすくなります。

具体的には、画像編集の前提知識をざっくり理解してもらいます。

これらを見ながら、自分のテーマに使えそうなものを探し、試します。試してみて、違ったなーとなれば、次の機能を試します。この繰り返しによって、気づけば、自分なりに「画像編集のメンタルモデル」が出来上がります。

これは人の脳の仕組みを利用した、効率の良い学習プロセスです。このように

  1. テーマを意図して撮影する
  2. テーマに向けて編集アプリを使う

という順に進めることで、撮影レベルと画像編集能力を同時にアップさせます。

3.4 光、奥行き、色

上述の「3つのフレーム」と「テーマ撮影、編集」だけでも、多くの人が写真技術の向上と自分の写真の出来栄えに驚き、満足します。しかし、さらに短期間で、レベルアップが可能です。それが、次のワークです。

このワークでは「光」「奥行き」「色」をうまく表現しているプロの写真を鑑賞します。例えば、光をうまく使っているプロの写真を3枚上用意し、その使い方を探求します。

すると、これまでのフレームとテーマなどでの撮影、編集体験から「どのように実現できそうか?」がある程度考え付きます。それができたら、早速やってみます。

この時「おそらく、このようにすれば、光をうまく使えるだろう」という仮説を立て、そして実際に確認するという作業を繰り返します。まさに、フィードバックを通じて、学習を行っている状態を作ります。

同様にして、奥行き、色を探求します。また、画像編集にもチャレンジして、より表現を洗練させるようにします。

このワークによって「フレーム」「テーマ」「光・色・奥行き」「編集能力」を同時に向上させていきます。

さらにこのワークは、「プロの写真を分析して、実際にやってみる」の練習を兼ねています。次のワークへのウォーミングアップになるように設計しています。

3.5 プロの作品を分析する

次に、プロの作品を分析することを「学び」ます。ここで重要なことは、プロの作品の分析方法は、こうです、ああです、こうやってくださいではなく、

ということです。そこで、決まったやり方をするのではなく、

  1. 分析をやってみる
  2. 実際に試してみる
  3. 結果を検証して、分析の仕方は正しかったか?

を検証することを学びます。

もちろん、学び方は「分析を通して、学ぶ」ことです。頭でっかちにならずに、やってみることが、何よりも大切です。そして、何度も試してみること(具体的、経験を通して)でしか、私たちは抽象的なことは、学べません。(抽象とはたくさんの事例を貫く特徴を掴み、ラベルを貼り付けることです)

この時、以下のようなステップで分析をします。

  1. プロの写真が集まるサービス(例 VSCOcam の写真など)から、お気に入りを3枚選ぶ
  2. なぜ、その3枚を選んだのか?理由を考える(共通点や、写真のテーマなど)
  3. その理由を自分が再現するには、どうしたらいいか?を考える

そして、実際に撮影をします。このようなプロセスで「良い写真だ」と思う理由を明らかにし、試してみて、確認するサイクルが発生します。これこそ「プロから学ぶ方法」に他なりません。

3.6 伝えたいことのために撮影する

以上のようなプロセスに従って、最終的に「見る側」に「どんなことを伝えたいか?」という視点から、写真の被写体選び、撮影方法、編集方法を考えるワークをします。

「伝えたいこと」のために、写真を撮るという課題によって、ここまで学んできた

を全て発揮することになります。このワークによって、各種の技能を組み合わせることを学びます。

4. チーム学習をする場合

上記のようなプロセスは、最短で3時間で一周することができます。

この際、学習ファシリテーションに長けたファシリテーターによって、探求のプロセスや、多彩な経験を持つ参加者同士での実験結果のシェアなどを通して、お互いに教えあい、学び合うようにします。

写真を学ぶ場合、良い被写体や、撮影環境を揃えることで、学習が促進されます。

例えば、脚立、照明、レフ板、三脚、スタビライザーを用意し、自由に使ってもらうように案内をします。また、良い写真が撮れる環境(午前中、晴天、野外に出やすいところ、観光地)で講座を行うことで、非常に盛り上がります。

この講座だけでなく、チーム学習では「教えあうこと」「助け合うこと」「協力すること」で多くを短時間で学ぶことができます。また、場の力を引き出すようにファシリテーションすることで、年齢、経験を超えて、各人が多くを学べるようになります。

チーム学習で得られるものを最大にするには、ファシリテーターが「学び方を振り返る」ように意図して、質問をすることです。普段とは違う学び方、自分がどう学んで、どう仮説を立てているか?について意識的にさせることが大切です。

なお、toiee labではチーム学習教材の提供も行っています。ご興味がある方は、以下をご覧ください。

・・・準備中です・・・

5. 独習をする場合

一人で学ぶ場合は、3つの意識が必要です。

です。このような意識を持って取り組むには、「FILMシート」を活用することが助けになります。すべてのワークをする場合に、FILMシートに記入し(わずか5分で可能です)、ワークに取り組みましょう。そしてワークが終われば、振り返りを必ず行うようにします。

また、独習をする場合は「短時間に一気に学ぶ」よりも、Learning by Doing と言って「仕事や活動に、学習を組み込む」と

学ぶことができます。日々の仕事を工夫して、写真を撮影したりすることで、長期的に確実に知識、スキルを身につけることができます。

6. まとめ

本稿では、「写真の学び方を学ぶ」プロセスについて解説をしてきました。カメラ、編集アプリは日進月歩します。さらに、写真の撮影テクニック、表現方法は日々更新されます。また機器も、カメラだけでなく、ドローン、自撮り棒、リモート撮影など様々な方法が出てきます。

このように変化の早い世界において、写真の正しい撮影方法ではなく、自分で探求し、プロの技や、日々更新される知識を「自分で手に入れるような」学び方が必要です。

写真には大きな可能性があります。写真に一枚によって、人の心を動かしたり、何か大切なことを伝えたりすることができます。今や、写真がコミュニケーション手段の一つになりつつあります。

もし、写真を学びたかったのに、うまく学べなかった、伸び悩んでいるという方は、是非「教わるのではなく、学ぶ」アプローチをお試しください。

5. 謝辞

写真の学び方、プロセスの研究は、机上で行ったのではなく、実際に講座に参加された方々とのやりとり、フィードバックを通じて洗練しました。この場をお借りして、講座設計に参加していただいた皆様に感謝をいたします。



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